吉田有紀 YOSHIDA Yuki

真夜中の逃げ水 2000 200×405cm  パネル 顔料 銀箔 合成樹脂

 作品は主に日本画顔料、箔で彩色したものをアクリル樹脂でコーティングするという手法で制作しています。画面に樹脂をかけることで、深みのある透き通った光沢感を演出し、従来の絵画表現とは異なる視覚効果を出すことを狙っています。

 2000年制作の「真夜中の逃げ水」は漆黒のやみのなかに一筋の光が差すようなイメージで描きました。暗闇に逃げ水は存在しないのですが闇の中に広がる想像は、いろいろな情報が目の前に繰り広げられる現実よりも奥深いものに感じます。次々と作られていく虚像(ゲームやメディア)が現実と交錯して人を殺してしまったりすることが簡単に出来てしまう現代社会はそれこそ逃げ水のような幻に安堵を求めて簡単にいろいろなことにだまされてしまう社会構造なのではないでしょうか。

 自分の作品の中に頻繁に表現される楕円形や深い色彩は夜空を見続けたときに網膜に残る残像のようなものであったり、叙情的な風景のなかに潜む色彩や形態をより簡略化したものであったりします。画面を形式化するというよりは宇宙的なイメージをつくることによる視覚的なヒーリングを目的としているのです。